ArgosIndex®ミッドマーケット

2020年第1四半期

主な結論

  • Argos Index®は2020年1月以降大幅な落ち込みを見せ、3月にはその傾向がさらに強まり、9.3x EBITDAまで 下落している。
  • 投資ファンド(8.8x)はストラテジックバイヤー(10.0x)よりも慎重な姿勢を維持している。
  • 買収マルチプルが15x EBITDAを超える取引の数は減少している。
  • 2020年第1四半期は欧州ミッドマーケットのM&A 取引高が回復を示しているが、第2四半期には明らかな落ち込みが予想される。
  • 中小企業のM&A取引についてはドイツがユーロ圏で最も活発であり、ベネルクスとフランスがそれに続いている。
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Argos Index® は大幅に落ち込み、9.3x EBITDA に

第1四半期のミッドマーケットにおける買収価格には、主に2020年初めの経済反転の予測が反映されている。本指数は6か月移動ベースで計算されているため、この段階では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機の影響は限定的である。(ただし、感染症に関連する混乱がすでに1月末から現れ始めていたことは特筆すべきだろう。)

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Interview with Rainer Braun, Chair of Entrepreneurial Finance at the TUM School of Management, Technical University of Munich

「Argos Index®は、不透明で 十分に研究されていないことで知られながらも、開拓すべきポテンシャルにあふれた市場に光を当てている。」

2020年第1四半期のArgos Index®には、新型コロナウイルスによる公衆衛生危機の最初の数週間しか反映されていないが、指数に示される傾向は明らかである。第3四半期以降の取引件数の減少によってバリュエーションに下落圧力がかかり、その結果価格も同様の影響を受けている。投資家は市場を離れていないが、投資に先立ってもう少し明確な見通しが得られるのを待っている。ミュンヘン工科大学(TUM)付属ビジネススクールでアントレプレナー・ファイナンスを教えるライナー・ブラウン教授が、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)危機が世界経済に広がっていく中この前例のない状況を踏まえて、ミッドマーケットの非上場市場に関する自身の見通しを語った。

Argos Index®についてどうお考えですか。

Argos Index®は、不透明で 十分に研究されていないことで知られながらも、同時に経済成長とイノベーションの主要な源であるミッドマーケットに光を当てています。というのも、私たちは市場に関する知見の多くを主に米国における官民両方の大規模な取引から得ていますが、これは真のグローバルな視点をもたらすものではありません。Argos Index®は6か月の範囲で2~3の景気循環をカバーしているため、情報は信頼性が高く、市場の長期的な推移について知ることができます。

第1四半期の指数は下落傾向を示しています。このうちのどれぐらいが「調整局面」の予想に起因し、どれぐらいが新型コロナウイルスによる世界的な経済活動停止に起因しているのでしょうか。

それはまさに重要な問題です。私たちには比較可能な状況の経験がほぼありません。2008年のリーマン・ブラザーズ破綻は金融恐慌を引き起こしました。現在世界は危機に直面していますが、ファンダメンタルズには変化がありません。これは外因性の危機です。バリュエーションの下落は予想されるほど顕著ではないかもしれません。現金を持っているプライベートエクイティ投資家はまだたくさんおり、取引を探していますが、資金は投資に回さず待機させています。下落の深刻さは、調整局面によるものであろうとそれ以上のものであろうと、今後数週間の間に明らかになるでしょう。
今後数か月間で中心的課題になるであろう私の大きな懸念は、この危機がEUの連帯にもたらしうる影響です。英国の離脱はあったにしてもEUの経済的利点は明らかであり、このような利点は、大陸全体で欧州の調和とユーロを脅かしているポピュリストの動きに打ち勝たなければなりません。これが深刻な脅威になる可能性は低いと私は考えていますが、もしそうなった場合は大きな混乱が生じることになります。

Argos Index®はドイツ市場にとって有益なツールでしょうか。

私が見るところでは、欧州、特にドイツのプライベートエクイティは、まだそのポテンシャルが完全に引き出されていません。これは方程式の両側にあてはまります。つまり投資ファンドの意欲だけでなく、企業にもLBOを資金調達の選択肢として検討する姿勢が十分にありません。しかし、欧州の小規模な企業はプライベートエクイティのスポンサーと連携することに対してだんだんと前向きになるかもしれません。私はこれらの体制が整った中小企業は欧州とドイツの経済の背骨であり、巨大なポテンシャルを持っていると見ています。ですから、答えはイエスです。Argos Index®は、私が欧州産業の「スイートスポット」であると考える部分に焦点を当てており、ドイツ市場にとって非常に有益なツールです。

ご自身のアントレプレナー・ファイナンスの授業では、どのようにArgos Index®を活用できるでしょうか。例えば、バリュエーション水準を推定するため、など。

Argos Index®には、欧州における投資の魅力的な事例がいくつか紹介されています。私は毎年プライベートエクイティ(PE)を教えていますが、私の手元にある指導事例の大半が米国の例です。Argosからは世界中のPEに関するより広いビジョンを得ることができます。付加価値を与え、より幅広い別の見方をもたらしてくれます。

新型コロナウイルス感染症とそれによるシャットダウンは、M&A活動にどのような影響を与えるでしょうか。中堅企業はM&A活動に参画するために、どれぐらい追加のレバレッジをかけることができるでしょうか。

過去に起きた危機の際に行われた取引の収益性に注目してみると、投資の平均収益率は非常に魅力的です。一部のプレイヤーは安く資産を購入できるようです。しかしこれらの過去の期間では収益の分散も大きく、この波に乗ろうとする投資家は自分が取ろうとしているリスクを意識する必要があります。結局のところ、どの状況が優勢になるかは誰にもわかりません。

M&A市場のバイサイドでは、ひとたび不確実性の霧が晴れてしまえば、十分な資金と戦略的な動機を持つ買い手が活発になるでしょう。それ以外の買い手は、市場で再びアクティブになる前に自分たちのポートフォリオを見直し、管理することに集中するかもしれません。

レバレッジについては、最近では7x EBITDAを超える高水準のプライベートエクイティ取引が見られました。これは大きな債務負担であり、現在の状況に残された企業に十分な柔軟性があることを願っています。しかし私自身の研究によると、中堅企業は大企業より負債が少ない傾向があります。この点が中堅企業に対して、好機が訪れた際にM&A市場に積極的に参加するための財務弾力性をもたらすかもしれません。しかし私はやはり、先を急ぐべきではない、ただ価格が低いからといってM&Aに飛び付くべきではないと思います。現時点ではたとえ価格が低いとしても不確実性が全面的に広がっているため、アグレッシブになるより忍耐強く待つ方が賢明です。本当に納得のいく根拠がないのに長期的な拘束力を持つ決定を取るのは控える時です。

このセクターのバリュエーション水準はどれぐらいまで下がると考えますか。2008-2009年の水準を下回るでしょうか。

ここでも不確定性が命取りです。しかし価格は2008-2009年に見られた水準を下回らない可能性が高いと見ています。

私の見解では、ここで考慮すべきシナリオが2つあります。第一に、この公衆衛生上の危機が継続し、新型コロナウイルス感染症の第二波が来て大規模なロックダウンが再開するとしたら、世界中の国々の経済は大きな課題に直面することとなり、2008-2009年を上回る水準が保たれる可能性は一切ないでしょう。第二のシナリオは、調整局面があった後に、U字回復を描いて価格が再び上昇基調に転じるというものです。二つ目のシナリオの方が望ましいのは明らかです。

欧州の成長のけん引役となる傾向にある欧州の中小・中堅企業について、Argos Index®はどのような未来を示唆しているでしょうか。

次回のArgos Index®が、この市場について妥当な水準のバリュエーションを示してくれることを願っています。取引数は明らかに減少しても、戦略的な取引が増えるということです。これによって、欧州のミッドマーケット市場は市場心理がやや悪化している時期であっても、質が高い資産が妥当な価格で取引される市場であるというメッセージが発信されるでしょう。
また別の見方として、このパンデミックの経験から利益を得る可能性がある企業や産業に目を向けることができるかもしれません。近い将来、興味深いライフサイエンス企業の取引が見られるだろうと思っています。さらに、サプライチェーンに対する新しい視点が必要とされています。「中国で製造した方が安く、ここに製品が届くまでに2週間しかかからない」というだけではない考え方です。現在サプライチェーンのレジリエンスといった要素が重要性を増しつつあり、サプライチェーンを作り変えることは経済的な利益になりえます。欧州のミッドマーケット企業の多くが、この機会をつかむ条件を備えていると思います。

03

投資ファンド(8.8x)はストラテジックバイヤー(10.0x)よりも慎重な姿勢を維持

投資ファンドについては、2019年第3四半期以降取引高が減少する一方で、買収価格のマルチプルは12%の低下を記録している。

企業価値評価が高水準を維持する中、投資ファンドは依然として選択に慎重であり、マルチプルの平均は8.8x EBITDA となっている。新型コロナウイルス感染症危機に直面する現在、投資ファンドのドライパウダーの水準は上昇を続けており (1)、2007年と比べて2.5倍に積み上がっている。

(1) Preqin によると、世界のプライベートエクイティ業界全体のドライパウダー総額は増加を続けており、2019年12月31日には1.45兆ドルに達している。

グラフ4 ミッドマーケット上場企業(1)と非上場企業のマルチプルの比較 (ストラテジックバイヤーの買収価格)
出所: Argos Index®ミッドマーケット / Epsilon Research / InFront Analytics / (1) smallcaps.infrontanalytics.com
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15x EBITDAを超える高マルチプルの取引は減少傾向

2020年第1四半期に記録されたマルチプルが15x EBITDAを上回る取引の割合は、2018年から2019年上半期にかけての水準に再び落ち着いている。

グラフ 3 – マルチプルが15x EBITDAを上回る取引の割合
出所: Argos Index©ミッドマーケット / Epsilon Research
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上場企業のマルチプルは下降傾向

注意事項として、株式市場のマルチプルは3月31日の時点のスポット価格に基づいて計算されており、このスポット価格には新型ウイルス感染症危機の影響が反映されている。過去6か月をベースに算出されているArgos Index®と比較する際は注意が必要である。
2020年3月31日の時点で、上場企業のマルチプル (1) は21%減の6.8 x EBITDAとなっており、この動きは株式市場の下落傾向 (2) と一致している。

(1) ユーロ圏ミッドマーケット上場企業のEV/LTM EBITDA 倍率は 6.8(出所:smallcaps.infrontanalytics.com)
(2) EURO STOXX® TMI Small指数は2020年1月1日~3月31日で26.1%低下

グラフ4 ミッドマーケット上場企業(1)と非上場企業のマルチプルの比較 (ストラテジックバイヤーの買収価格)
出所: Argos Index©ミッドマーケット / Epsilon Research / InFront Analytics / smallcaps.infrontanalytics.co
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2020年第1四半期は欧州ミッドマーケットのM&A 取引高が回復、しかし第2四半期には明らかな落ち込みが予想される

第1四半期の欧州ミッドマーケットのM&A活動は回復の傾向を見せ、前四半期に比べて取引高が15%増加した結果、1年前の水準に戻っている。3月半ばまでは新型コロナウイルス感染症危機の影響をさほど受けなかった。

企業価値評価が高水準にあることと、景気循環が下降局面に転じる恐れから、過去6か月の取引高は500件と、過去数年間(2010~2018年)の平均を15%下回っている。

M&Aのプロを対象に行った調査に基づく2020年のM&A市場の平均成長予測は、2019年末の時点ではまだ4.7%であった (1)。しかし回答者の76%が、市場の活動に最も影響を与える可能性がある要素として「不測の経済事象」を挙げていた。

(1) Refinitiv 2019 « Deal Makers Sentiment Survey »

グラフ5 ユーロ圏ミッドマーケット(1500万~5億ユーロ)のセグメント別取引高
出所:Epsilon Research / MarketIQ
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中小企業のM&A取引についてはドイツがユーロ圏で最も活発、ベネルクスとフランスがそれに続く

ユーロ圏主要諸国のミッドマーケットM&A活動の推移からは、いくつかの新たな傾向が明らかになっている。

  • 過去6か月間で、ドイツの比重が過去最高の水準(全取引の30%)まで高まっている。ドイツはミッドマーケットM&Aが最も活発な国であり、過去数か月間でその存在感は拡大しているとみられる。
  • ミッドマーケットの取引に占めるフランスの割合は、18%の水準で安定を見せている。フランス経済においては中堅企業の割合が低いため、同国にはこのセグメントに関して、ドイツのような活発さはない。
  • 第1四半期はイタリア、イベリア半島ともに、ミッドマーケットの取引高に占める割合が10%以下となっており、ユーロ圏南部諸国のシェアは縮小している<
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グラフ 6  ユーロ圏のミッドマーケットM&A活動
出所:Epsilon Research / MarketIQ

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