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主な結論
Argos Index®はわずかに下落して8.9x EBITDAに
2024年第1四半期のArgos Index®は、わずかに下落して8.9x EBITDAとなった。2021年第2四半期に最高値に達して以降、2年半にわたる下落が継続している。Indexは2017年以来最低の水準にあり、過去20年間の平均値に近づいている。当四半期のArgos Index®には、投資ファンドの支払価格の落ち込み(9.1x EBITDAに下落)が反映されており、投資ファンドの支払価格とストラテジックバイヤーの支払価格(8.7x EBITDAで安定)の差が徐々に縮まりつつある。
価格に対する下押し圧力は、アッパーミッドマーケットにおけるマルチプルの下落(2023年第1四半期以降、4x EBITDA低下)によっても浮き彫りになっており、ローワーミッドマーケットのマルチプルとの差が縮小している。Argos Index®のサンプルにおいて、EBITDAマルチプルが15倍を上回る取引の割合は13%で安定しているが、テクノロジーおよびヘルスケアの取引がサンプルに占める割合がわずか30%という記録的に低い水準にある中、EBITDAマルチプルが20倍を上回る取引は皆無だった。それに加え、売り手の価格は調整を継続し、EBITDAマルチプルが7倍を下回る取引の割合が過去最高水準に達した。
当四半期のM&Aミッドマーケットの活動は、低水準にとどまる過去2年間の四半期ごとの取引件数の傾向を引き継いで安定しているが、世界的なM&A市場の回復とは対照的である (1)。金融環境が変化する中、この表面的な安定の背後には相反する傾向が隠れており、(i) 過去最高水準の金利、成長の鈍化、地政学的リスクなど、2023年の厳しいマクロ経済環境の遅発的な影響が、取引件数および金額の両方を圧迫している一方で、(ii)ユーロ圏においてインフレ率が2022年のピークより大幅に低下したことを受けて、金利に関する不確実性が軽減され、段階的な回復が後押しされている (2)。
このような状況の下、M&Aミッドマーケットは引き続き、プライベートエクイティ・ファンドが投資ポートフォリオを更新する必要性 (3)と、企業がビジネスモデルを適応・変革する必要性に支えられ、著しい強靭性を発揮している。
(1) 欧州のM&A市場の活動は、2024年第1四半期に2023年比で60%増加した(出所:LSEG / FT, 2024.3.28)。
(2) インフレ率が2024年3月に2.4%に低下し、ユーロ圏のGDPは2024年第1四半期に0.3%増加した(2023年第4四半期は+0.1%) (Eurostat)。
(3) 最新のベインの「Global Private Equity Report 2024」によると、プライベートエクイティ・グループは世界全体で、3.2兆ドル以上に相当する過去最多の28,000社の未売却企業を有している。
Argos Index®ミッドマーケット EV/EBITDA倍率中央値の6カ月移動平均値
出所: Argos Index©ミッドマーケット / Epsilon Research
投資ファンドの支払価格のマルチプルの低下がArgos
Index®に影響
高金利の環境により借入コストが跳ね上がったことを受け、投資ファンドの支払価格のマルチプルは3%低下して9.1x EBITDAとなり、ストラテジックバイヤーのマルチプルに近づいた。とは言え、投資ファンドは当四半期も引き続き資本を投入し、M&A市場におけるシェアを拡大している。投資ファンドは依然として記録的な水準にあるドライパウダーを活用し、質の高い資産の選択的な買収の実施を継続している。第1四半期のIndexサンプルにおいて、EBITDAマルチプルが15倍を上回る取引のほぼ半分を投資ファンドが占めていた。
インフレの減退、欧州中央銀行(ECB)による利下げの見通し、ソフトランディング・シナリオの見込みに支えられて、公開株式市場が回復を続ける一方で (1)、第1四半期におけるストラテジックバイヤーの支払価格のマルチプルは、8.7x EBITDAで安定していた。大企業は引き続き、変革的買収と低価格の機会を求めており、EBITDAマルチプルが7倍を下回る取引の65%をストラテジックバイヤーが占めていた。
(1) EURO STOXX® TMI Smallは2024年第1四半期に3.4%上昇。
企業価値/ 実績EBITDA
出所 : Argos Index© ミッドマーケット / Epsilon Research
EBITDAマルチプルが7倍を下回る取引の割合が過去
最高の水準に
2024年第1四半期には、EBITDAマルチプルが極端な値(7倍未満または15倍を上回る)である取引が全体の47%を占め、2018年以来最大の割合に達した。マルチプルが15倍を上回る取引の割合は低水準で安定を見せ、20倍を上回る取引は皆無だった。
Argos Index™のサンプルにおけるマルチプルが高低両極端にある取引の割合
出所:Argos Index®ミッドマーケット / Epsilon Research
Argos Index™のサンプルにおけるマルチプルが15x EBITDA を上回る取引の割合
EBITDAマルチプルが7倍未満の取引は、分析の対象となった取引の34%という過去最大の割合を占めており、価格に対する下押し圧力が浮き彫りとなっている。
Argos Index™のサンプルにおけるマルチプルが<7x EBITDAおよび>15x EBITDAの取引の割合
2022/2023年度の限定的な落ち込みを経て、第1四半
期のM&A活動は安定
当四半期は、ユーロ圏のM&A取引件数には変動がなかったが(約150件)、開示金額は8%減少した。2023年第4四半期の回復に続いて、LBOミッドマーケットは前四半期比で取引件数が5%増、取引金額が17%増と、徐々に上向きに転じており(1)、これがM&A活動を支えている。M&A市場に占めるLBO(取引件数ベース)のシェアは18%に拡大し、2023年度半ばの14%から回復しているが、2021年の20%を上回る水準には依然として達していない。
全体的なミッドマーケットのM&A活動の安定は、インフレ率が2022年のピークから大幅に低下した中、金利が(依然として高水準にはあるが)安定したことに後押しされた世界的なM&A市場の回復(2)とは対照的である。しかしながら、この回復は依然として、経済的ボラティリティ、地政学的リスク、金融市場が見込んでいる利下げの遅れによって妨げられている。
世界的なラージキャップM&A市場は、2年間にわたる大幅な落ち込みを経て回復している。それと比較してミッドマーケットは変動が少なく、不利な経済環境においても比較的高い安定性を保ち、2022/2023年度の取引件数の落ち込みは限定的だったが、環境が改善する中での回復は控えめである。これは特にローワーミッドマーケットに当てはまり、同市場は欧州で広範にわたって安定を維持した。
(1) 出所:Epsilon Research / MarketIQ
(2) LSEG(FT, 2024.3.28)によると、世界的なM&A活動は2024年第1四半期に30%増加し、100億ドル超の取引は2倍以上に増加した(2023年度比)。
ユーロ圏ミッドマーケット(1500万~5億ユーロ)取引件数と取引金額
出所:Epsilon Research / MarketIQ
ユーロ圏中間市場 - 取引件数
出所:Epsilon Research / MarketIQ
投資ファンドの活動は第1四半期に増加を見せ、当四半期のミッドマーケットM&Aにおけるシェア(1)は、取引件数では18%に増加し、取引金額では32%という記録的な水準に達した。
(1) ビルドアップは含まない。
ユーロ圏ミッドマーケットにおけるLBOのシェア
出所:Epsilon Research / MarketIQ